今から60年前、中村天風先生に出会った。その時に言われた言葉が「お前さんが主人公だよ」の一言。戦争という一つの歴史に翻弄されながら、稀有な運命を生きてこられた人である。
奔馬性結核という肺全体が広範囲にわたって侵される病で、当時抗生物質などなかった。かかれば死に至ると言われた病気であった。その様な中で、天風先生はある人物との出会いをした。その出会いが天風先生の人生を大きく変えることになる。
ヨーガーの大聖人カリアッパ師との出会いである。治療を求めてアメリカへ行った帰りの船中のことであった。
そして、師についてヒマラヤに…。三年にわたる想像絶する修行を経て、病気を治して帰国する。
則ち、心が身体を動かす原理を会得されたのである。
財界に身を挺しては企業のトップにまで上り詰められた。そして後に天風会として、政財界のトップリーダーに大きな影響を与えた。
人に大きな影響を与える人物とは、物事の真理を会得することにより、絶対的自信に溢れた人物である。
振り返って、武道を伝えようとする者は如何であろう。一つの武道を例にとれば藤平光一先生の門下生の話。
社会経験の無いまま或いは希薄のまま、人間としての生き方を学ばないまま道場に入門、一つ覚えのように技を覚えて、高段者と呼ばれそのまま人を指導する…。
人と人との交わりが希薄のまま、さらには素養のない人物が先生と呼ばれて…。そこから人災が始まる。
自分が偉くなったように錯覚を起こして、傍若無人な行いをする…。
あたりかまわず大声をだす。氣にいらなければ怒鳴り散らす…。指導者心得など
読んだこともないのであろう。上には忖度をして、下には威張り散らす…。
そんな姿を二人みてきた。一人は高弟と言われた人物、一人は師範と云われる人物。常識は考えられない言葉と罵倒、行動。
其の為に的にされた人は、「あの人にはついていけません。やめさせて頂きます。」明日が昇段審査日と云う日のことである。
私の道場から四人辞めていかれた。
長い月をかけての修練…本人の胸中は如何なものであったか、今も胸が痛む思いでいる。
人を指導、導こうとするものは、相手の心を知り、相手の氣を尊び、相手の立場
に立ち、共に行こう、共に前進しようと思う心がなくてはならない。
欲を言えば自らに心の師を持つことである。
そして素養と共に人間としての生き方についての哲学を学ぶことである。
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